…夢か現か幻か?
 一体何が起こったのか……


 辺りは人でいっぱいだった。欠けている月が浮かんでいるだけなのに、目の前はやたらと明るい。
 原因は分かっている。ココが地上だから。うるさいくらいの電灯が、辺りを照らす。
 しかし今夜は、それだけの所為ではないようだ。
 ―――屋台。
 いつもはない店たちが、並木を埋め尽くしている。騒がしいけれど、それが心地良くもある。
 ふと、オレは下に目をやった。普段は着ない浴衣に身を包んだ自分がいる。

 今夜は、祭りだ。
 
「祐太郎――っ!」
 ふいに自分の名前を呼ばれて、オレは振り向いた。そして呼ぶ。
「ナツミ!」
 人込みを掻き分けて、普段のワンピース姿ではなく、淡いピンクの浴衣姿のナツミがぱたぱたと走ってくる。
「ゴメン、待ったでしょ?」
「いや、そんな事無いよ」
 右手に持っていた団扇でナツミを扇ぎながら応える。
「それならいいんだけど…」
 ナツミは「祐太郎ってばいっつもそう言うんだもん」と、少し頬を膨らませた。その仕草が、ナツミらしいと思う。
「……」
「あー!祐太郎何笑ってるのよっ?!このカッコそんなに可笑しい?!」
 どうやら顔が笑っていたらしい。見当違いな事をいうナツミに、オレは慌てて訂正した。
「そ、そんな事無いよ。――似合ってる」



「祐太郎、カキ氷食べたーい」
 オレたちはその後、屋台を見てまわった。
「あ、祐太郎見て見て!射的だって!」
 ナツミは何か見つけるたびにオレを呼び。
「祐太郎〜、金魚一匹もとれなかったぁ〜〜」
 オレもそのたびに立ち止まり。
「―――祐太郎っ」
 それはとても楽しい時間だったのだと思う。


 出店の通りを出る頃には、ナツミは満足そうだった。手にはわたあめの袋を持ち、頭の後ろにはお面まで付いている。
 ナツミが満足なら、オレも嬉しい。
「楽しかったね」
「そうだな」
「また来ようね」
「ああ、来年、な」
「約束だよ?」
「もちろん」
 話しながら歩いていると、やがて人通りの無い道に出た。ナツミがぽつりと言う。
「…本当に……」
「?」
 突然、ナツミが、ぱっ、とオレの2、3歩前に飛び出した。
 オレの方を向いて、お面を顔面に被り直す。さっきまでのナツミの笑顔が、お面の後ろに消える。
「ナツミ?」
 嫌な予感がして、ナツミに一歩近付いた。ナツミはお面をおさえているのか、口元に両手を当てながら、
「ありがとう楽しかったよ、祐太郎。
 ―――本当に嬉しかったよ、祐太郎―――」
    ドンッッッ!
「ナツミ!!!」
 駆け寄ろうとした瞬間、目の前が弾けた。



    ドンッッ!
「っ?!!!」
 大きな音に驚いて、オレは跳ね起きた。慌てて辺りをきょろきょろと見回すと、そこは自分の部屋だった。
 …どうやら、テーブルに突っ伏して眠ってしまっていたらしい。
「何だ…今の…」
 考える間も無く、音はまた聞こえてきた。
   ひゅるるる…どぉんっ!
 カーテンを閉め忘れていた窓から、鮮やかな光が入ってきた。
「ああ…花火…」
 今夜は…祭りだったのか。
   パンッ! ひゅるひゅるるる…
 様々な音を響かせながら、光は美しく空を彩る。
 でもオレは何故か花火をまともに見れなくて。
「………っ?」
 訳も分からないまま、涙が一筋流れた。






「きゅ――…」
「ん…どうしたの…?」
「きゅ〜〜?」
「今ね…楽しい夢…見てたの」
「きゅー」
「祐太郎……どうしてるかなぁ…」
「…きゅ〜……」
「やだ…どうしてワッフルが泣くの…?平気だよ、あたしは」
「きゅ…」
「あれ…?なんか眠い…ごめん…あたしまた…寝るね…」
「…きゅ――――」






「ナツミ…?」
 花火が終わる頃、オレは夜空に向かって呟いた。
 それは特に何が起こる訳ではなかったけれど。


 …夢か現か幻か?
 真夏の夜の幻影か。



End...




Mayさんに捧げた暑中見舞品です。
本当はアキさんの出番も考えたバージョンもあったのですが、内容が固まらない内に暑中が過ぎて行ってしまいました…。
あいた。
明るい話も書きたいなー、と思いつつこんな感じに。

…後日、Mayさんからこのお話のナツミサイドを頂いてしまいました…!
こちら♪→『SIGNAL』
『うたかた』よりも素敵話が展開されているので是非とも。


2002/7/27

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