「同じだな。俺と」
 そう言ってその人は、
 笑いかけてくれた。
 口の片端を吊り上げた、淋しそうな笑い方だったけど。


 思い出すのは、いつも雨の日。


「な〜……」
 ボクは捨てられたばっかりで。
 多分そこは、いろいろなゴミが集まる所だったんだと思う。
 …ボクみたいに。
 ボクは、ちょこん、とゴミ袋の上に乗っかって。
 お腹が空いているような
 とても眠いような
 何だか不思議な気分だった。
   しとしとしと。 しとしと。
 冷たいはずの雨がなぜか温かくて。
 目を閉じたらもう2度と開けられないんじゃないか、っていう恐怖は
 深く深くどこまでも潜れそうな心地良さの中に沈んでしまっていた。
 …このまま…寝ちゃおうかな……
   ガサ...
「…な……?」
 …誰かいるの?
「何だ、お前」
 誰かが来たのは分かったけれど、
 目の前がぼやけていて、顔が見えなかった。
 実際、その時のボクはまだよく目が見えていなかったのかもしれない。
「ああ…」
 その人は急に小さな声で言った。
「捨てられたのか…こんな所に」
「な〜…」
 何かを言ってくれているのは分かったけれど、
 ボクはとても眠かった。
 …でも、せめて…もう一声だけ…
「な……。………」
「おい?………――――――!!!」
 その人が叫ぶような声と、ふわり、と自分が軽くなったと感じたのをサイゴにボクは目を閉じた。





 …雨よりも温かい何か…

「…ぅな〜。…な゛っ?」
 次に目が覚めたら、口の中に甘い味が広がっていた。
 驚いたボクは思わず飛び起きた。
「おっ、気付いたか」
 ぼやけた視界の中で、青い人が嬉しそうな声を上げた。
 どうやらこの人が、さっきボクに話しかけてくれた人みたい。
「なーっ」
 口を開けてみた。コレは…?
「おいおい、俺が押し込…じゃねぇ、折角やったミルク出すなよ、お前」
「な〜?」
 ミルク?ボクに?くれたの??
「腹減って死にかけてたんだからな、ちゃんと飲め」
 混乱しているボクをよそに、ぐいぐいと僕の口にミルクを入れる。
 甘くて、ほんのり温かいそれは、とてもとてもおいしかった。

「よーし、じゃあおとなしくしてろよ」
「な〜〜」
 青い人は、お掃除をする人らしい。
 ボクはその人の持っていたバケツに入れられて、いろいろ動き回った。
 バケツの中にはふかふかのタオルがあったから、乗り心地はばっちりだ。
   きゅっきゅっきゅーっ。
 その人がお掃除する一定のリズムが気持ち良くて、眠ってしまうのに時間はかからなかった。




 お掃除を終わらせて休んでいる時。
 その人は何か煙たいモノを口にくわえて、
「このくらい、許せよ」
 そう言ってボクの方を向かないで、ふ――っ、と煙を吐いた。
 …ボクは少し、むせた。

「お前さぁ…」
 ゆっくりと、その人は話しかけてきた。
「よくひとりでいられたな…あんな所に」
「な?」
「いや…否応無しに捨てられただけか……」
 …ずきん。
 どこかが痛かった。
「ああ、」
 その人はボクの目を見て、









「お前………同じだな。俺と」
 そう言ってその人は、
 笑いかけてくれた。
 口の片端を吊り上げた、淋しそうな笑い方だったけど。
 …ずきん。
 さっきと似ているけど違う所がまた痛くなった。














 あの人はまたお掃除を始めけど、今度のボクは眠くならなかった。
 広いお部屋を掃除しているあの人が遠くに行ってしまったので、
 そばに行こうと思ってバケツからぴょこん、と飛び出した。

 
 それから先は、また少し切れ切れの記憶になっている。

 あの人の姿がすぐには見つからなくて、歩き回ってたら、
 いつの間にかボクは外に出てしまっていた。

 でも気付かずに歩き続けてると、誰かに、ひょいと持ち上げられた。
 あの人かと思ったら、違った。

 …子供たちだった。

 逃げようと思っても、逃げられるものじゃない。

 ボクは仕方なく、子供たちに従った。

 …どこでどんな事をしただろう??

 あの人との事はもうすっかり遠い遠い日のように思えて来た頃。

『またねーっ』
   …バタン。
 子供たちの無邪気な声と、暗闇が訪れる音。

 バケツから持ち出したタオルと、ボク。
 あたりはまっくらで、何も見えなかった。

 ボクが何をしたっていうんだろう??
 悪い事、したかなぁ。

 あの子たちは「また」って言ってたけど、
 今度はいつ来るのかなぁ。

 あの人…あれ、どんな人だっけ??
 またいつか、会えるかなぁ。


 くらい。くらい。こわい。
 ひとり。ひとり。いやだ。
 だれか。だれか。………。


 誰もいないまっくらやみで、
 ボクは、泣いた。



 そこは、のちにボクの当分のお家になるバス停前のポリバケツだった。
 結局それ以来、子供たちは来なかったし、
 ボクも日に日に思い出せなくなってきていた。
 あまりに小さい時の事だから、仕方ないのかもしれない。
 でも何だか雨の日は、ずきん、とどこかが痛かった。






 それから……


 「あ゛――っ!終バス逃したっ!!」


 人の良さそうなおにーさんと出会う事になるのは、
 遠い遠い日を忘れてしまって、
 もう少し、ひとりでいるのに慣れてしまった頃のお話。



 本当にほのぼの推奨派なのですか。そのはずです。  何だかほのぼのを思い描こうとするとそれに付属してこんな話が降臨してきたのでカミングアウト。  もしサトウさんと出会う前に会ってたとしたらこんな感じかなぁ、と。  ししゃも多分生後〜日、とか、そういうレベルなんじゃ…。  ししゃも一人称だととてもししゃもがネコに思えません。  …精神年齢高イヨー…。  まぁいいか(いいのか)。  ところで、ネコの鳴き声は「なー」だと思っているのですがいかがなのでしょう(今更)。  「にゃー」とか「みゃー」も良いですけど、やはりかわいいと思うです。「なー」の方が。  「みー」とかも好きですけど。要はネコなら何でも…。  Kしゃもはほのぼの推奨なので今回のコレはさらりと流していただければと思います。  書かないとほのぼの思考にも移れない感じでしたので…。 2002/9/6

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